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神戸地方裁判所 平成11年(ワ)2606号 判決

原告

杉寺一代

被告

野村忠司

主文

一  被告は、原告に対し、金八〇二万三〇八七円及びこれに対する平成一一年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一申立て

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇〇一万七六〇七円及びこれに対する平成一一年三月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

発生日時 平成一一年三月二八日午前一〇時〇五分ころ

発生場所 神戸市垂水区学が丘五丁目三番先

加害車両 自家用普通乗用自動車(神戸七七ほ二七八八)

右運転者 被告

被害車両 自家用原動機付自転車(神戸垂ひ三五二五)

右運転者 原告

事故態様 原告が被害車両(以下「原告車」という。)を運転して本件道路を北上し、原付車を一台やり過ごした後、右ウィンカーを点灯し本件道路右側の市営多聞台住宅入口へ右折しようとしたところ、右後方から、被告が運転する加害車両(以下「被告車」という。)が時速四〇キロメートルの制限速度を約二〇キロメートルオーバーし、かつ、禁止の表示された中央線を右に越えて走行して来たので、原告車の右側面と被告車の左前部が接触し、原告が転倒した。

2  責任原因

被告は、民法第七〇九条の不法行為責任を負う。

3  原告の受傷内容及び治療経過

(一) 原告は、本件事故により第一二胸椎圧迫骨折、右膝擦過傷、腰部・両膝・両肩打撲症の傷害を受けた。

(二) 治療経過

(1) 飯村病院

入院 平成一一年三月二八日から同月三〇日まで(三日)

(2) 舞子台病院

入院 平成一一年三月三〇日から同年五月八日まで(四〇日)

通院 平成一一年五月九日から同年一〇月四日まで(実通院一一一日)

(3) 症状固定

原告は、右治療経過後、平成一一年一〇月四日、第一二胸椎圧迫骨折による脊柱に変形を残す後遺障害を残し症状固定となった。

右症状は、自賠責保険により、自賠法施行令別表の後遺障害等級第一一級七号(脊柱に奇形(変形)を残すもの)に該当するとの認定を受けた。

4  原告の損害

(一) 治療費(自己負担分) 金九六万八五二〇円

飯村病院 金二四万七七九〇円

舞子台病院 金七〇万〇三七〇円

舞子台薬局 金二万〇三六〇円

(二) 入院雑費 金一〇万九六〇〇円

入院一日当たり一三〇〇円×四二日=五万四六〇〇円

装具代 金五万五〇〇〇円

(三) 通院交通費 金四万四四〇〇円

舞子台病院分(バス)二〇〇円×二×一一一日=四万四四〇〇円

(四) 休業損害 金一七四万五七一三円

原告は、子供四人を有する有夫の主婦で、家事労働に従事するかたわら、有限会社西野マネキン紹介所(以下「西野マネキン紹介所」という。)にパート勤務していたが、本件事故日から平成一一年八月末日まで家事労働がまったくできず、実母(鈴木希代子)に家事手伝いとして来てもらっていた。また、西野マネキン紹介所のパート勤務は現在もできない状態である。

原告は、本件事故当時三六歳であったので、平成一一年八月末日まで(一五七日間)は、賃金センサス平成一〇年第一巻第一表女子労働者学歴計三五歳ないし三九歳の年収額三八九万九一〇〇円により、次の計算式となる。

三八九万九一〇〇円÷三六五×一五七=一六七万七一四七円

同年九月一日から症状固定日の同年一〇月四日まで三四日間は、何とか家事労働はしたが、パート勤務ができなかった。原告は、平成一〇年一二月は八日働いて七万円、同一一年二月は六日働いて五万一〇〇〇円の収入を得ていた(甲一五。なお、一月は年始めの用事があって、二日間しか働かなかったので、除外する。平均一か月七ないし八日間働いていた。)ので、パート勤務ができなかった損害は次のとおり六万八五六六円である。

一二万一〇〇〇円÷六〇×三四=六万八五六六円

(五) 入通院慰謝料 金一八〇万円

傷害の部位程度、入通院治療の経過より相当額

(六) 後遺障害補償費 金一八〇五万九三七四円

(1) 逸失利益 金一四〇五万九三七四円

〈1〉 原告の年収 前記(四)を援用して三八九万九一〇〇円

〈2〉 労働能力喪失率 二〇パーセント

〈3〉 症状固定時年令 三七歳

〈4〉 新ホフマン係数 一八・〇二九

三八九万九一〇〇円×〇・二×一八・〇二九=一四〇五万九三七四円

(2) 後遺障害慰謝料 金四〇〇万円

(七) 以上(一)ないし(六)の合計金二二七二万七六〇七円

5  損害の填補 金四五一万円

原告は、自賠責保険金として四五一万円の支払を受けた。

6  差引損害請求額 金一八二一万七六〇七円

7  弁護士費用 金一八〇万円

原告は、本訴の提起、追行を原告代理人に依頼した。

8  よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対ずる認否

1  請求原因1の事実のうち、事故態様を除き、その余は認める。

2  同2の主張は争う。

3  同3の事実のうち、(一)、(二)は不知、(三)は認める。

4  同4の事実は不知ないし争う。

三  被告の主張

1  事故態様について

本件事故現場は、交通事故現場見取図(甲二)のとおり、南北に通ずる片側一車線の道路と右道路の東側に突き当たり路が存する三叉路の交差点付近である。南北道路の北行き車線上、突き当たり路が突き当たる部分に、一台の駐車車両が存した。

被告は、南北道路を北行に走行し、右交差点をそのまま直進しようとしていた。交差点手前で前方に存する原告車及び駐車車両を認識したが、原告車は何ら方向指示機を点滅させていなかった。

被告は、そのまま直進するために駐車車両を避け、かつ、原告車に接触しないようにするため、反対車線を走行しようとした。

被告が原告車を追い越そうとしたところ、原告車が急にハンドルを右に切ってきたため、原告車と被告車が接触してしまったものである。

2  過失相殺

本件事故の発生については、原告は、後方を注視し、かつ、右折をしようとするなら右折の方向指示機を点滅させて右折すべきであるのにこれを怠り、漫然と右折した点に過失が存し、右過失が本件事故の発生に寄与したことは明らかである。

よって、相応の過失相殺をすべきである。

理由

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)のうち、事故態様を除き、その余は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様について検討する。

1  証拠(甲二、一七ないし二〇、二二、二三、原被告各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、南北に通じる市道(以下「本件道路」という。)とその東側にある市営多聞台住宅に通じる道路(以下「右折道路」という。)とがTの字に交差する交差点(以下「本件交差点」という。)内である。本件道路は、両側に歩道を有する片側一車線の道路であり、原告及び被告が走行していた北行き車線の幅員は四・四メートル、南行き車線の幅員は四・五メートルであって、道路中央には黄色のセンターラインが標示されており、制限速度は四〇キロメートルである。本件交差点の手前約三〇メートルの所には、西側に通じる道路とがTの字に交差する交差点(以下「手前の交差点」という。)があり、その手前は左カーブとなっている。なお、右折道路の幅員は七・三メートルである。

(二)  原告は、本件事故当日、本件道路の東側にある市営多聞台住宅に住む実母に会いに行くために本件道路を北進し、本件交差点を右折して右折道路に進入しようとしていた。一方、被告は、友人との待ち合わせに多少遅れていたために急いで本件道路を北進しており、本件交差点を直進して名谷駅の方に向かっていた。

(三)  被告車は、先行する原付車の一団に追いついたので、多少速度を落としてこれらの後に付いて進行して手前の交差点に差し掛かったところ、原告車が道路左側をゆっくり走っており、その後方を進行していた原付車が原告車を追い越して行ったので、被告は、原告車が停止するのか否か思案しながら、これを追い越そうと考えていた。

(四)  本件交差点内の北行き車線上には車幅約二メートルの車両が道路左側に駐車していたため、直進する四輪の自動車は、センターライン寄りに走行しなければならなかった。被告は、右駐車車両を避けて、なおかつ道路左側を走行していた先行する原告車を本件交差点付近で追い越すために、センターライン寄りに進行していたところ、原告が後方を十分確認しないまま、本件交差点から一二、三メートル手前の道路左側から右折のウインカーを点滅しながら右折を開始したため、右ハンドルを切りながら急停止しようとしたが間に合わず、本件交差点内の南行き車線上で被告車の左前部側面と原告車が接触し、被告車は更に本件交差点の北東角の歩道を越え、敷地と歩道との間に設置されていた車除けに衝突して停止した。原告及び原告車は、本件交差点の北東角付近に転倒した。

(五)  本件交差点の北東角の歩道は、同所付近で斜めになっていて、点字ブロック様の物が設置されいて車道との高さは同一となっている。被告車のスリップ痕は、左車輪のものがセンターライン付近から本件交差点北東角の歩道との境まで一〇・一メートルの長さで、右車輪のものが本件交差点の中央、センターラインから三・八メートルの地点から五・八メートルの長さで、進行方向斜め約三〇度の角度で多少曲線を描きながら残っている。

(六)  事故直後に実施された実況見分は、原告は立ち合っておらず被告のみが立ち合ったものであるが、その調書(甲二)には、原告車は本件交差点の手前約一二、三メートルの地点において道路左側から徐々に右折を開始し、センターラインを越えて進行したことが記載されている。また、原告車が右折を開始し、被告が危険を感じてブレーキをかけてから停止するまでの距離は二七・四メートルと記載されている。

2  以上の事実によれば、被告は、手前の交差点に差し掛かった際、先行する原告車が道路左側をゆっくり進行しており、後続の原付車がこれを追い越して行ったため、原告車が停車するのか否か思案しながら、本件交差点内に駐車している車を避けるため、かつ原告車を追い越すためセンターライン寄りを進行していたところ、原告車が本件交差点の手前約一二、三メートルの地点から、ウインカーは出したものの、後方の確認を十分しないまま、道路左側から右折を始めたため、右ハンドルを切りながら急停止しようとしたが間に合わず、本件交差点の南行き車線上で原告車と接触したと認められる。

3  この点に関し、原告は、その本人尋問において、手前の交差点付近まで時速約三〇キロメートルの速度で進行してきたところ、本件交差点を右折するためにウインカーを出して道路右側に寄ろうとしたが後続の原付車があったため、これをやり過ごしてから手前の交差点を過ぎた付近で右側に寄り、本件交差点の手前では時速一〇ないし二〇キロメートルほどに減速してセンターラインに沿って進行し、本件交差点のところで右折したこと、本件交差点の手前約一二、三メートル及び三、四メートルの地点でバックミラーによって後方を確認したが、被告車は確認できず、センターラインを越えるときには後方の確認はしていない旨供述している。

しかしながら、仮に、原告が本件交差点の一二、三メートル手前で既にセンターライン寄りを低速で進行していたとすれば、これを追い越そうとした被告車は、そのかなり手前からセンターラインを越えて南行き車線を進行していなければならないところ、被告車のスリップ痕が本件交差点内のセンターライン付近から進行方向斜め約三〇度の角度で付着していることと符合せず、被告車は本件交差点の一二、三メートル手前では北行き車線のセンターライン寄りを進行していたと認めるのが相当であり、したがって、仮に、原告も被告と同様本件交差点の一二、三メートル手前でセンターライン寄りを進行していたとすれば、被告は原告の後方を進行していたことになり、原告が右折したとすれば、被告はそれをやり過ごせばよいだけであって、右に急ハンドルを切ることは何らなかったのであるから、原告が本件交差点の一二、三メートル手前でセンターライン寄りを進行していたとする原告の右供述は採用できない。また、仮に、原告が本件交差点の手前約三、四メートルの地点でバックミラーによって後方を確認したとすれば、被告車がバックミラーの死角に入っていれば格別、そうでなければ被告車を確認できないはずはないから、原告の後方確認は不十分であったといわなければならない。

4  一方、被告は、その本人尋問において、時速約五〇キロメートルの速度でセンターライン寄りを進行していたところ、原告車が本件交差点の直前でウインカーを出すこともなく道路左側から急に右折を始め、被告車の前方に進入してきた旨供述している。

しかしながら、被告車は、原告車と衝突した後、本件交差点の北東角の歩道を越え、敷地と歩道との間に設置されていた車除けに衝突して停止したものであり、実況見分調書によれば、被告が危険を感じてブレーキをかけてから停止するまでの距離は二七・四メートルと記載されているが、右車除けなければ更に進行していたとも考えられ、被告が友人と会うために急いでいたことをも併せ考えると、被告車の速度は時速六〇キロメートル前後であったと思われる。また、原告車がウインカーを出していたことを認めるに足りる客観的な証拠はないが、原告はウインカーを出した旨供述しており、また、前記のとおり、被告はかなり急いで進行していたことをも考慮すると、被告が前方を十分注意していなかったとも考えられるので、ウインカーは出していたものと認めるのが相当である。

三  証拠(甲三の1、2、四の1ないし4、五の1ないし3、六ないし一〇の各1、2、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により第一二胸椎圧迫骨折、右膝擦過傷、腰部・両膝・両肩打撲症の傷害を受け、飯村病院に平成一一年三月二八日から同月三〇日まで(三日)入院したが、自宅近くの舞子台病院に転院し、同日から同年五月八日まで(四〇日)入院し、その後、同月九日から同年一〇月四日まで通院した(実通院一一一日)ことが認められ、また、原告が、右同日第一二胸椎圧迫骨折による脊柱に変形を残す後遺障害を残し症状固定となった旨の診断を受けたこと及び右症状が自賠責保険により自賠法施行令別表の後遺障害等級第一一級七号(脊柱に奇形(変形)を残すもの)に該当するとの認定を受けたことは、当事者間に争いがない。

四  損害

1  治療費 金九六万八五二〇円

証拠(甲三の2、四の2ないし4、五の2、3、六ないし一〇の各2、一二の1ないし5、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、治療費として、飯村病院に二四万七七九〇円、舞子台病院に七〇万〇三七〇円、舞子台薬局に二万〇三六〇円、合計九六万八五二〇円を支払ったことが認められる。

2  入院雑費 金一〇万九六〇〇円

入院一日当たり一三〇〇円として四二日分五万四六〇〇円を認める。また、証拠(甲一三)及び弁論の全趣旨によれば、原告は胸椎装具金属枠代金として五万五〇〇〇円を支出したことが認められ、右代金は、原告の前記傷害の程度、治療の経過からすれば、本件事故と因果関係があるものと認められる。

3  通院交通費 金四万四四〇〇円

証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、舞子台病院への通院交通費(バス)として片道二〇〇円、通院期間一一一日分の四万四四〇〇円が認められる。

4  休業損害 金一七二万八五六六円

証拠(甲一四、一五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、子供四人を有する有夫の主婦で、家事労働に従事するかたわら、西野マネキン紹介所にパート勤務していたが、事故日から平成一一年八月末日まで家事労働がまったくできず、実母(鈴木希代子)に家事手伝いとして来てもらっていたこと、その後は、家事労働はできるようになったが、パート勤務は現在もできない状態であること、西野マネキン紹介所からは平成一〇年一二月は七万円、平成一一年一月は一万七〇〇〇円、同年二月は五万一〇〇〇円の支給を受けていたが、休業損害証明書(甲一五)には、毎年一、二月及び九月は仕事が少ない期間であって、平均八日ないし一〇日は稼働しており、金額にして約八万五〇〇〇円位である旨記載されていること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、原告が西野マネキン紹介所でパート勤務していたことは認められるが、源泉徴収票等その収入を証明する客観的な証拠がない本件においては、右休業損害証明書の記載から直ちに原告の収入が月平均八万五〇〇〇円であるとも、原告の主張する六万八五六六円であるとも認められないから、結局前記三か月の平均収入四万六〇〇〇円をもってその収入とするほかない。

ところで、休業損害の算定に当たって主婦の場合は、一般的には女子労働者学歴計全年令平均の年収額をもってすることとされ、有職の主婦の場合であっても、パート等による収入が平均賃金の額に満たないときは、平均賃金額によるものとされている。しかしながら、有職の主婦の場合と専業主婦の場合とを同一に論ずるのは相当ではなく、原告の場合は、賃金センサス平成一〇年第一巻第一表女子労働者学歴計全年令平均の年収額三四一万七九〇〇円に右パートによる平均収入の一二倍の五五万二〇〇〇円を加えると三九六万九九〇〇円となるが、右額は、女子労働者学歴計三五歳ないし三九歳の年収額三八九万九一〇〇円とほぼ等しいので、少なくとも右額をもって基礎収入とするのが相当である。したがって、平成一一年八月末日まで(一五七日間)の休業損害は一六七万七一四七円となる。

また、平成一一年九月一日から症状固定日である同年一〇月四日まで三四日間は、パート勤務ができなかったのであるから、前記五五万二〇〇〇円を基礎として計算すると五万一四一九円となる。

5  入通院慰謝料 金一四〇万円

原告の傷害の部位程度、入通院治療の経過等諸般の事情を考慮すれば、原告の本件事故による入通院慰謝料は一四〇万円が相当である。

6  逸失利益 金一一九八万七三九三円

原告の年収は、前記のとおり三八九万九一〇〇円であり、労働能力喪失率は、前記後遺障害等級に照らし二〇パーセントと認めるのが相当であり、症状固定時の年令は三七歳であるから、就労可能年数三〇年のライプニッツ係数一五・三七二を用いると、一一九八万七三九三円となる。

7  後遺障害慰謝料 金三四〇万円

右後遺障害の程度等諸般の事情を考慮すれば、原告の本件事故による後遺障害慰謝料は三四〇万円が相当である。

8  以上1ないし7の合計は金一九六三万八四七九円となる。

五  過失相殺

前記二で認定した事故態様からすれば、被告は、原告車の動静を十分注視しないで、しかも制限速度を約二〇キロメートルもオーバーする速度で漫然と進行したものであり、その点において過失が大きいといわなければならないが、他方原告も、本件交差点を右折するためには、二段階右折をしないならば、交差点の手前からセンターラインに寄って進行しなければならないにもかかわらず、本件交差点から一二、三メートル手前の道路左側から後方を十分確認することなく右折を開始したものであり、この過失もまた大きいといわなければならない。

なお、本件道路は、前記のとおり、センターラインが黄色ではあるが、追い越し禁止区間であるか、追い越しのための右側部分はみ出し禁止区間であるかは、甲第二号証の実況見分調書には何らの記載がなく、本件記録上からは明らかではない。いずれにしても、センターラインを越えて走行することは禁止されているが、これは、主として対向車との衝突事故の発生を防止するために採られている措置であって、自車走行車線内の他車との関係を主として規制したものではない上、被告としては、本件交差点には駐車車両があったため、これを余裕を持って避けるためにはセンターラインを越えなければならなかったものと解せなくもない。

以上の事実によれば、本件事故における原告の過失は四割と認めるのが相当である。

したがって、原告の損害は、一一七八万三〇八七円となる。

六  損害の填補 金四五一万円

原告が自賠責保険金として四五一万円の支払を受けたことは、原告の自認するところであるから、差引損害請求額は七二七万三〇八七円である。

七  弁護士費用 金七五万円

原告が本訴の提起、追行を原告代理人に依頼したことは記録上明らかであり、右認容額及び本件訴訟の経緯に鑑みれば、被告に請求し得る弁護士費用は、七五万円と認めるのが相当である。

八  以上の次第で、原告の本訴請求は、金八〇二万三〇八七円及びこれに対する本件事故の日である平成一一年三月二八日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 島田清次郎)

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